ザルツブルク


古澤巌コンサートスケジュール

フィラデルフィアの学校を終え、ニュージャージーのニューアーク空港からブリュッセルへ。

今は無き航空便、 People’s express で220$、多分アメリカからヨーロッパに移動するには、これが一番安かった。ザルツブルクに引っ越しだ。

全ての衣装からLPまで、一度に運ぶ。ザルツに住む先輩に、とりあえずご厄介になるつもり。

その頃から大荷物。帽子なんて7個重ねて、仕方ないからかぶって運んだ。

「バアッ!」

ビックリした、何?

おや、クラスメイトが。
自分がトイレに立った間に、わざわざ飛行機のクローゼットの中に二人で隠れてた。
寂しそうな自分を、慰めてくれたんだと思う。

思えばいつも、寂しかった。日本に帰りたい… 。バイオリニストにはたして、なれるのだろうか… 。

「すげー荷物だな。大丈夫か?」

呆れ顔の友とブリュッセルで別れ、自分はまず、列車でケルンを目指す。

スイス国境のパスポート コントロール。

まずい。ウェストポーチに100個位、アンティークウォッチが。

初めてアメリカに住んだ、お上りさんな自分は、当然、無駄な物をコレクションしていた。

で、このコントロールがだ。

ザラーッとシートに並べた時計には目もくれず、

「脱げ」

?何で。武器なんか持ってないし。

「下を 脱げ」

マジ?なんなんだ?

「パンツも脱げ 」

おいおい、お前らいい加減にしてくれ。ここはハイジの国、スイスじゃないか。

真っ昼間のカーテンも無いコンパートメントの座席の上で、日本男児としてあるまじき情けない状況。

どこ見てんだよ… 。何の検査だ。お医者さん?それか、これが噂の、ホモってやつなのか?自分、うぶだから わからないけど。

後に知ったが、丁度自分位の、日本人の「運び屋」が指名手配中だった。「勝新系」だったらしく、パンツの中が捜査対象。後にオランダで捕まったと聞いた。

そのせいだったと信じたい。

ふと、コンパートメントの壁に書かれた落書きが。

「又にいちもつ、手に荷物」。

最後の乗り換え、ミュンヘン。もう真夜中。
ホームの端まで行かないと乗り換えられない。

当然の事ながら、荷物でカートが山盛りになっている。

(ホームがいやに湾曲してるな、気ー
付けなあかん)

まずい。マジでカートが重すぎる。あぁ、落ちる… 。落ちた。線路に全部。

誰もいない真っ暗な中、カートごと拾い上げ、何とかザルツブルク行き最終列車に乗る。着いたら2時をまわっていた。

先輩は留守だった。鍵の場所がわからない。

外は雪。美しいが、どうする?

傍にすぐ階段があった。その下で、カーボーイ用のロングコートをはおり、あまりの疲労で寝てしまった… 。

美しい金髪の美女のキスで目が覚めた。

と思ったら、狼みたいにでっかい犬が 雪に埋もれた自分の顔をしきりに舐めていた。

救助犬だな、きっと。

宇奈月は、日本のザルツブルク。

そこに話を繋げようとして、また、しょうもないことを書いてしまった。

宇奈月温泉セレネ公演。5日(土)6時から。

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