その朝、一番の新幹線に乗るため、駅に着いた。
「何かがあったようで、新幹線 動いてないんです。」
前の晩には、三ノ宮に入るはずだった。スケジュールが おして、最終列車を逃してしまったから。
朝、会う約束をしていた、指揮者の朝比奈 隆さんに、うかがえなくなったお詫びの電話を入れる。
「おー、古澤君か。今朝がた地震があってな、家の壁が崩れとる、は〜っはっは。私は今から、車で東京に行ってくる。」
朝比奈さんは その昔、関東大地震の時には、東京にいたらしい。
自分が東京都交響楽団在任中、数々の名指揮者をお迎えした中で、一度だけ、朝比奈さんが来られた。
ブルックナーのシンフォニー第八番。
本当に思った事を書けば、
自分はそのコンサートを体験出来た事が、都響の全てだった。
あれだけ海外からの名指揮者が何人も来てくれていても。
追いつけ、追い越せ。ずっと外国の真似をしながらやってきた音楽界。
でも、この厳格なおじいちゃんは、ちょっと軍隊入っているところも、テンポ感も、全てが海外のとは違っていた。
あのブルックナーは、今でも思い出すと泣ける。作曲家自身、きっと喜んでくれたと思う。
昨日、あの震災前から通った、神戸女学院から電話があった。
「長い間、ありがとうございました。」
年に二回の公開授業だった。
少し淋しい。
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