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異例の売れ行き!『時間は存在しない』その魅力に迫る

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いま物理学の世界で注目を集める一人が、イタリア人のカルロ・ロヴェッリだ。なにせ前作は物理学書としては異例の100万部超を売り上げ、“ロヴェッリ旋風”を巻き起こした。その最新作の邦訳『時間は存在しない』は、物理学の本では異例の売れ行きを見せ、たちまち重版3刷が決定した。彼の理論の面白さはどこにあるのか?

カルロ・ロヴェッリは、異色の物理学者だ。元ヒッピーで社会運動に身を投じた末に、物理学を通して社会と関わることを決意したという。その両方の根にあるのは「世界の新しい見方を提示する」というモチベーションであり、そこから生まれた理論の独創性が、いま彼が世界から注目される理由の一つになっている。

彼が主導する物理学の最先端理論が「ループ量子重力理論」だ。その世界観は斬新で、「根源にあるのはループという要素であり、時間と空間はそこから組み立てられた二次的なもの」だという。この理論では、時間のなかで物事が展開する様子ではなく、物事が互いに対してどう変化するか、この世界の事柄が互いの関係においてどのように生じるかを記述する。日本でも有名な「超ひも理論」は時間と空間の存在を前提としているが、それとは根本から異なる「世界の新しい見方」を提示しているのだ。

こうした独自の理論を考え抜いてきたロヴェッリが書いたユニークな時間論が、本書『時間は存在しない』だ。イタリアで18万部発行、35か国で刊行決定という世界的ベストセラーの待望の邦訳である。

『時間は存在しない』ではまず、現代物理学によってわれわれの時間の概念が次々に覆される様子が描かれる。それもただの解説ではなく、実に詩心のあふれる表現で、生き生きと私たちに迫ってくるのだ。例えば、こんな風に……

“空間の各点に、異なる時間が存在する。唯一無二の時間ではなく、無数の時間があるのだ。「時間」と呼ばれる単一の量は砕け散り、たくさんの時間で編まれた織物になる。この世界は、ただ一人の指揮官が刻むリズムに従って前進する小隊ではなく、互いに影響を及ぼし合う出来事のネットワークなのだ。”

本書には数式が一か所しか出てこない。ロヴェッリは時間の本当の姿について、専門的な知識のない私たちがイメージしやすいように、様々なたとえやリリカルな表現を駆使してわかりやすく示してくれる。現代物理学の到達点を一連の物語のように紹介しながら、時間とはいつでもどこでも同じように経過するわけではなく、過去から未来へと流れるわけでもない、といった驚くべき説を検証していく。

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